英語(English)に関するエッセイ


科学論文英訳者からお客様への助言

日本人が英語で科学論文を書くのは、一般に苦労するものです。筆者も、今でこそ科学論文の英訳を中心に仕事をしていますが、研究者として最初に英語論文を書いたときは随分難儀しました。英語ネイティブなら子供でも明白な冠詞や前置詞の使い方に、散々悩まされたものです。英作文をやっかいに感じられるお客様の事情はよくわかります。
 日本人が英語が苦手であることは、他のアジア諸国の人々に比べてTOEFLスコアが低いことなどからもうかがえます。ユーラシア大陸東端沖の島国で特殊化した言語と、同大陸西端沖の島国で特殊化した言語の間には、大きな隔たりがあるようです。大脳言語野の使われる領域に違いがあるとも言われます。
 日本人研究者にとって、母語と大きく異なる言語を使わなければ国際的に勝負できないのは厳しいハンディですが、この情勢は当面変わりそうにありません。インターネットの時代に入り、世界に向けて情報発信する必要性がますます高まっています。機械翻訳が発達すれば外国語を学ぶ必要がなくなると言う夢のような話は、何十年も前から言われていましたが、論文翻訳のような分野では実現しそうにありません。自然言語に内在するあいまい性を適切に解釈するのは、今のところ人間にしかできない技です。
 英語はどうしても苦手という方は、研究活動と日本語論文の執筆に専念し、後は翻訳者にまかせるのも一つの選択肢でしょう。元の日本語論文が確かなものであれば、国際的に情報発信するという目的は達成できるはずです。まず明快な日本語論文を書けるようにすることは、後々英語で書くための基礎固めとも言えます。
 翻訳を引き受ける側として現実的な話をすれば、お客様から依頼された英訳の品質は、日本語の原稿に強く制約されます。原文を超える品質に訳文を仕上げることが技術的に可能であっても、コストがかかってしまいます。できるだけ完成度の高い日本語原稿を用意していただけると、最終的な英訳の品質を高め、コストを抑えるうえで効果的です。また、翻訳が不要な部分であっても、本文で言及されている図表を参考資料として添付していただけると、内容を理解するうえで助かることがよくあります。
 同様のことは英文校正についても言えます。英文の表現に難があっても、論理が明快であれば、仕上がりの品質はよくなります。また、英文の意味が通じるのか、お客様の方で自信を持てない場合は、日本語原稿を添付して、日本語を読める担当者に校正を依頼していただくと確かです。その後さらにネイティブチェックをかけることも可能です。
 とは言え、完成度の高い原稿を用意する時間や、十分な予算をとれない場合もあるのは重々承知しています。個々の状況に応じて、お客様の要求を率直に翻訳会社や翻訳者に伝えていただくのがベストです。プロ意識を持った翻訳者であれば、与えられた条件下で最善を尽くすはず。 


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